雄峰朝日連峰磐梯山と共に国立公園として時代の脚光を浴びてから5年になる、朝日連峰は最近、山岳地形、山岳気象、動植物の生態または無尽蔵と称される地上地下資源、電力資源において専門家はもとより一般山岳愛好家の注目を引く様になったのは何より嬉しいことである。
五百川郷の中心地朝日町(宮宿町)から二十四キロ。トラックを利用して約一時間四十分登山の基地朝日鉱泉に到着する。
山形から約四時間、始発バスの客となれば、お昼にはすでに俗塵を湯に流して仙境の客人となれるのだ、せんせんと流れる朝日川の左岸一段と高い丘地に二軒の鉱泉旅館がある、朝日館、古川屋がこれである。開湯は明治初年。実に八十余年の歴史ある鉱泉である。朝日大権現の霊異によって発見され、泉質は炭酸カルシューム。胃腸病、腹痛等に特効あるといわれている。浴客実に年間六千人。夏期登山シーズンとなれば遠く関東地方からも訪れ一日三百人を越す時もめずらしくない。登山シーズンには宮宿から出張売店もありサービスにつとめている、しかし五百川郷のそちこちにみられる原始的なランプぐらしだ。
古川屋の古老、房吉翁はことし六十六歳。十五歳の時から先達をつとめ朝日を跋渉する事、実に五百三十回。全く山の主である翁はいまなおかくしゃくとして大きいどうらんになた。きせるをポンとたたきながら「今の若い者は…」と気焔を上げている。先年若者数名連れて大朝日から全く道なき道をぬうて三面に行っている。旅館は食付一泊三百円、宿泊料一泊百円。下界で想像のつかない安さだ。
(写真・阿部幸作“ランプ生活の朝日鉱泉” 文・長岡幸助)
※山形新聞連載記事「朝日探訪」ランプの朝日鉱泉〜山の主・先達つとめる房吉翁〜
(昭和30年、掲載日時不明)より全文
2009.05.19:朝日町エコミュージアム協会